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目次
ハラスメントに関する基礎知識
ハラスメントの定義
昨今、職場における“いじめ”、“嫌がらせ”、“いきすぎた指導”といった、いわゆるパワーハラスメント(パワハラ)が社会問題化しています。これを受け、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の 充実等に関する法律」(パワハラ防止法)が改正されるとともに、令和2年には厚労省により、パワハラ防止法に基づく「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して 雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」(パワハラ指針)が策定されました。
パワハラ指針において、職場において行われるパワハラは下記3つの要件を全て満たす行為と定義されています。
- ①優越的な関係を背景とした言動であって、
- ②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
- ③労働者の就業環境が害されるもの
当然ですが、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、②に当てはまりませんからパワハラに該当しません。このことはパワハラ指針にも明記されています。また、巷で言われるような“やられた側がパワハラと感じたらパワハラ”も誤りです。あくまでパワハラは上記①~③を全て満たす行為を指します。企業側としては、パワハラに該当しないよう注意しつつも、事業活動のため適正な業務命令や指導を行っていかなければなりません。
①~③の各要件と関連して、パワハラに該当するか否かの判断ポイントの詳細を後述しますので是非参考にしてみてください。
ハラスメント対策を企業で行うメリット
職場におけるパワハラ対策措置を講じることは企業に対して法律上課された義務ですから(令和4年4月から中小企業にもパワハラ防止法に基づくパワハラ対策措置を講じることが義務付けられています。)、ハラスメント対策を怠ると法令違反になってしまいます。また、安全配慮義務違反や業務災害(労災)を理由とする責任が発生するおそれもあります。そのため、ハラスメント対策措置を講じることで企業を適法に運営しコンプライアンスを確保できます。
また、最近は労働者の権利意識が高まっていますから、ハラスメント対策により働きやすい職場環境を整備することで、労働者との信頼関係が生まれ業務の生産性向上や無用な労使トラブルの回避が望める点も大きなメリットといえるでしょう。ハラスメント対策を行ううえでは、東京労働局策定の自主点検票も参考になります。
【参考】セクハラが発生した際に企業がとるべき対応について|労務問題に精通した弁護士が解説
ハラスメントかどうかの判断基準のポイント
ポイント① 「優越的な関係を背景とした」とは(要件①)
パワハラを受ける労働者が行為者に対して抵抗・拒絶できない蓋然性が高い関係を背景として行われることを意味します。
上司と部下・先輩と後輩等、職務上の上位者が下位者に対してパワハラとされる行為を行うケースが典型例です。また、同僚や部下といった同等又は下位者による言動であっても、同等又は下位者の方が業務上必要な知識・経験を有しており協力がなければ円滑に業務を遂行できない場合も「優越的な関係」に該当します。さらに、集団による行為で、これに対抗・拒絶することが困難な場合も含まれますので、地位ではなく人数差で優越的な関係とされることもありえます。
そのため、職務上のポジションが下位の者による行為であっても、豊富な知識・経験を有していたり、集団を形成した上での言動はパワハラに該当する可能性がある点は要注意です。
ポイント② 「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」とは(要件②)
社会通念に照らし、明らかに業務上必要性が無い注意・指導や、その態様が相当でないものを意味します。業務上明らかに必要性の無い言動、業務の目的を大きく逸脱した言動、業務遂行の手段として不適当な言動、行為の回数・行為者の人数等その態様や手段が社会通念上許容される範囲を超える言動がこれに含まれますが、様々な要素を総合的に考慮して判断することが求められます。
パワハラ指針では、下記の考慮要素が挙げられています。
- パワハラとされる言動の目的
- パワハラとされる言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況
- 業種や業態
- 業務の内容や性質
- パワハラとされる言動の態様、頻度、継続性
- 労働者の属性や心身の状況
- パワハラとされる言動の行為者とこれを受けた労働者との関係性
労働者側に問題(ミス、帰責性)がある事案では、その問題の内容・程度とそれに対する指導の態様等との相対的な関係性が重要な要素となります。労働者側の問題が重大なのであれば一定程度の厳しい指導を行ってもパワハラとはされず、逆に、小さな問題に対して厳しい指導を行うとパワハラと認定されやすくなります。
ポイント③ 「労働者の就業環境が害される」とは(要件③)
パワハラとされる言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったため能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど就業の上で看過できない支障が生じることです。
ポイントは、判断基準が「平均的な労働者の感じ方」、つまり、同様の状況下で同様の言動を受けた場合に、社会一般の労働者にとって就業する上で看過できない支障が生じたと感じるような言動であるかどうかが判断基準となることです。したがって、冒頭で述べたとおり“やられた側がパワハラと感じたらパワハラ”は間違いです。言動を受けたその人がどう感じたかの主観で判断するのではなく、同じ状況下で平均的な労働者がどう感じるかを基準として判断されます。
【参考】セクハラの事実認定の基準とは?企業側が知っておくべきポイントを弁護士が解説
ハラスメントの種類・典型的なパターン
パワハラ指針において、パワハラに該当すると考えられる典型例が列挙されています。(職場における優越的な関係が背景にあることが前提となります。)
①身体的な攻撃(暴行・傷害)
殴る・蹴るなどの暴行がこれに該当します。物を投げる行為などもこれに該当します。他方で、誤ってぶつかってしまった場合など悪気(暴行・傷害の故意)が無い場合は該当しません。
②精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・暴言)
人格を否定する言動を行う(相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含みます)、業務の遂行に関して必要以上に長時間にわたる叱責を繰り替し行う、他の労働者の面前で大声での威圧的な叱責を繰り返し行う、相手の能力を否定し、罵倒するような内容のメール等を当該相手を含む複数の労働者宛に送信すること等が該当します。
他方で、適切な指導や業務命令であればパワハラに該当しません。規則を守らない労働者に対しある程度厳しく指導することや、重大な問題を引き起こした労働者に対し強く注意したり再発防止を要求したりすることは適切な指導ですから、パワハラに該当ないといえるでしょう。
③人間関係からの切り離し(仲間外し・無視)
仕事から外し長期間にわたり別室に隔離したり自宅研修させる、一人の労働者に対し同僚が集団で無視し職場内で孤立させること等がこれに該当します。
他方で、業務上の正当な理由や必要性がある場合はパワハラに該当しません。新規に採用した労働者を育成するために短期集中的に別室で研修等の教育を実施する、懲戒規定に基づき適式に懲戒処分を受けた労働者に対し、通常業務に復帰させるうえで一時的に別室において研修をうけさせることなどは、パワハラに該当しないでしょう。
④過大な要求(明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
肉体的精神的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に直接の関係のない作業を命ずること、新卒採用者に対し必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの目標を課し、達成できなかったことを強く叱責すること、業務とは関係のない雑用等を強制的に行わせることがこれに該当します。
他方で、労働者の育成のためにやや高いレベルの業務を任せること、繁忙期に通常時より多量の業務を任せることは、正当性のある要求ですからパワハラに該当しません。
⑤過少な要求(合理性なく能力や経験と乖離した程度の低い仕事命じる・仕事を与えない)
④の反対パターンです。管理職の労働者を退職させるため誰でもできる業務を行わせること、嫌がらせのために仕事を与えないこと等がこれに該当します。
他方で、労働者の能力に応じて業務のレベルを下げたり業務量を軽減することは、合理性があるためパワハラに該当しません。
⑥個の侵害(プライベートに過度に立ち入ること)
労働者を職場外でも継続的に監視すること、私物の写真撮影をすること、労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露することがこれに該当します。
他方で、配慮のために家族の状況等につきヒアリングを行う、労働者の了解を得て機微な個人情報を必要な範囲で人事労務部門に共有し配慮を促すことはパワハラに該当しません。
【参考】社外にハラスメント相談窓口を設置するメリット|ハラスメントの相談は弁護士へ
これってハラスメント?具体例をベースとしたハラスメントの判断基準
例① 許容範囲を超えた注意・指導がパワハラと認定された事例
東京地方裁判所平成26年1月15日判決(サントリーホールディングスほか事件)では、上司が作業ミスを繰り返す部下に対し「新入社員以下だ。もう任せられない。」「なんで分からない、お前は馬鹿だ。」などと叱責し、当該部下がうつ病を発症し休職し療養したいと希望したにもかかわらず、休職になれば他部署への異動はできなくなると述べて休職を先延ばししたことにつき、部下に対する注意・指導として許容される限度を超える不法行為と認定されました。
本件のような「新入社員以下だ」、「馬鹿」といった発言は、相手の能力を否定し罵倒する発言の典型例といえるでしょう。
例② 労働者のミスに対する過度な叱責がパワハラと認定された事例
福井地方裁判所平成26年11月28日判決(X産業事件)は、顧客の事業所において防火設備の保守点検を行う入社直後の高卒社員の部下に対し、同行して指導する上司が半年間にわたり「学ぶ気持ちはあるのか」、「詐欺と同じ、3万円(点検料)泥棒したのと同じ」、「会社は辞めた方が皆のためになるんじゃないか。やめてもどうせ再就職はできないだろ、自分を変えるつもりがないのならば家でケーキでも作れば」、「死んでしまえ」といった言動を繰り返した結果、当該部下が自殺したことにつき、仕事のミスに対する叱責の域を超え当該部下の人格を否定し威迫するものであり、経験豊富な上司から新入社員に対して為されたことを考えると典型的なパワーハラスメントとして不法行為に当たると認定されました。
労働者側にミスがあるとはいえ、業務上必要かつ相当な範囲を超えた叱責を行うとパワハラと認定されてしまいます。また、本件のようにパワハラの結果として労働者の自殺という深刻な結果が生じた場合、企業側が負う責任も大きくなりやすいです。
例③ 労働者の政治的信条を理由とする監視等がパワハラと認定された事例
最高裁判所平成7年9月5日判決(関西電力事件)は、労働者の政治的信条や組合活動を嫌悪した企業側が、労働者を監視しこと、ロッカーの無断点検を行ったこと、仲間外しを行ったことが労働者の人格的利益を侵害する不法行為と認定しました。
今ほどパワハラが注目されていなかった古い時代の判例ですが、労働者の政治的信条といったプライベートな事情を理由に個の侵害(監視やロッカーの無断点検)や仲間外しを行うと不法行為責任が発生する可能性があるといえます。
例④ 厳しい叱責がパワハラではない(違法ではない)と判断された事例
東京地方裁判所平成平成28年10月7日判決は、病院勤務の看護師(部下)が、上司から長時間にわたり指導を受けたり、「人間的に無理」と言われたことにつき、当該看護師(部下)が普段からミスを繰り返しており他の看護師がフォローしなければならない状況であったこと、それらのミスが正確性・安全性が要請される医療機関において軽視できないものであること等を理由に、当該看護師(部下)の自立を目的に為された指導は直ちに違法とはいえないと判断しました。
部下側にミスがあり、かつ、医療機関という特殊性が、違法ではないという判断に繋がったと思われます。指導の目的が部下の自立という正当なものであった点も、違法な叱責ではないとされたポイントでしょう。
【参考】パワハラ防止法による法改正の内容とは?経営者が知っておくべき基礎知識
ハラスメント対応に関するご相談は弁護士法人山本総合法律事務所へ
ハラスメント対策措置などの対応は、企業に法律上課さられた義務ですから、ハラスメント対策措置やその前提としてハラスメントそのものに対する理解が求められます。また、実際にハラスメントが起きてしまった場合は、迅速かつ適切な初動対応が不可欠です。労働者がパワハラを受けたと訴えていても、今回ご紹介した判断基準やポイントに照らすとパワハラとまではないえないケースもあるでしょうから、見極めが重要です。
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この記事を書いた人
山本 哲也
弁護士法人 山本総合法律事務所の代表弁護士。群馬県高崎市出身。
早稲田大学法学部卒業後、一般企業に就職するも法曹界を目指すため脱サラして弁護士に。
「地元の総合病院としての法律事務所」を目指し、個人向けのリーガルサービスだけでなく県内の企業の利益最大化に向けたリーガルサポートの提供を行っている。