「ハラスメント防止規程とは、どのようなものなのか」
「ハラスメント防止規程には、何を定めればよいのだろうか」
このようなお悩みを抱えてはいませんか?
パワハラやセクハラなどのハラスメントを防止するための措置を講じることは、法律で定められた事業主の義務です。その一環として、企業はハラスメント防止規程を策定する必要があります。
本記事では、
などについて解説しています。
ハラスメント防止規程の作成方法が分からずお困りの企業の経営者や担当者の方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
まずは、ハラスメント防止規程とは何かを確認しておきましょう。
ハラスメント防止規程とは、職場における各種ハラスメントを防止するために、企業が定める社内規程のことです。
内容としては、職場におけるハラスメントを断じて許さない旨の事業主の方針、ハラスメントの定義や禁止される行為の具体例、被害者や加害者への対応方法、被害に遭ったときの相談窓口などが記載されるのが一般的です。
近年、セクハラやパワハラをはじめとする職場におけるハラスメントによって、深刻な被害を受ける労働者の増加が社会問題化しています。企業としては、従業員を守るためにも、健全な経営を維持するためにも、ハラスメント防止対策の基本として、ハラスメント防止規程を策定することが重要です。
ハラスメント防止規程を作成することは、企業としての法的義務です。
セクハラについては男女雇用機会均等法11条1項で、職場におけるセクハラを防止するための装置を講じるべきことが、事業主に義務づけられています。具体的な措置の内容については、同条4項に基づき厚生労働省が策定した、いわゆる「セクハラ防止指針」で定められています。
セクハラ防止指針の中で、職場においてセクハラを行ってはならない旨の事業主の方等を明確化し、その内容を従業員へ周知・啓発すべきことが定められています。その手段の一つとして、就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、事業主の方針等を規定することが挙げられています。
同様に、パワハラについても労働施策総合推進法30条の2第1項で、職場におけるパワハラを防止するための装置を講じるべきことが、事業主に義務づけられています。
そして、同条3項に基づき厚生労働省が策定した、いわゆる「パワハラ防止指針」で職場においてパワハラを行ってはならない旨の事業主の方等を明確化し、その内容を従業員へ周知・啓発すべきことが定められています。その手段の一つとして、就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書において、事業主の方針等を規定することが挙げられています。
このような法律の規定と厚生労働省が策定した指針により、ハラスメントのうち、少なくともセクハラとパワハラについては、ハラスメント防止規程を策定することが企業に義務づけられているといえるのです。
ハラスメント防止規程を作成しなくても罰則はありませんが、実際にハラスメント被害が発生した場合には企業に法的責任が生じることがあります。具体的には、従業員が安全に労働できるための配慮を怠った「安全配慮義務違反」(労働契約法5条)や、加害者となった従業員の監督を怠った「使用者責任」(民法715条1項)に基づき、被害者に対する損害賠償責任を企業が負う可能性があるのです。
従業員をハラスメントから守るのはもちろんのこと、企業としての法的責任を果たすためにも、ハラスメント防止規程を策定することは重要といえるでしょう。
【参考】ハラスメント調査報告書の書き方のポイントとは?人事担当者が知っておくべきポイント
ハラスメント防止規程の設置方法として、次の3通りが考えられます。
就業規則の本文中に、職場におけるハラスメントを禁止する旨の規定を設ける方法です。
この方法による場合は、ハラスメント禁止規定と懲戒規定とを連動させる必要があります。
ハラスメント禁止規定においては禁止行為の内容を具体的かつ網羅的に定めておき、懲戒規定においては「第○○条(ハラスメント禁止規定)に違反したとき」の処分内容を定めます。
就業規則の本文には委任規定を定めておき、これに基づいた別規程として、ハラスメント防止規程を設ける方法もあります。
この方法による場合は、まず就業規則の本文中に「詳細は事業主が別に定めるハラスメント防止規程による」といった委任規定を設けます。
この委任規定に基づき、就業規則とは別にハラスメント防止規程を設けるのです。こうすることにより、ハラスメント禁止規程は就業規則の一部としての効力を有します。
懲戒規定については、ハラスメント防止規程の中に「第○○条に違反したときは、就業規則△△条に基づき懲戒処分の対象とする」との規定を設けて、就業規則中の懲戒規程と連動させるのが一般的です。しかし、ハラスメント防止規程内に懲戒規定を設けても構いません。
ハラスメント規程には、ハラスメントの種類ごとに禁止行為を具体的かつ網羅的に掲げる必要があるため、ある程度のボリュームになります。そのため、就業規則の中にハラスメント禁止規定を設けるよりも、就業規則とは別にハラスメント防止規程を設ける方法の方が望ましいことが多いでしょう。
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会社と労働組合との間で、ハラスメント防止に関する協定を締結するという方法もあります。労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する人との間で協定を締結します。
この方法によれば、労使で協力してハラスメント防止に取り組むことになるので、大きな効果が期待できます。
ただし、会社としては別途、ハラスメント防止に関する方針等を明確化し、全従業員に対して周知・啓発しなければなりません。そのため、この労使協定を結ぶ方法は、就業規則または別規程でハラスメント防止規程を策定した上で行った方よいといえます。
【参考】セクハラの事実認定の基準とは?企業側が知っておくべきポイントを弁護士が解説
ハラスメント防止規程を策定しなくても罰則はありませんが、企業にとって以下のように重大なリスクが生じるおそれがあります。
職場におけるハラスメントを放置すると、その職場の従業員は精神的あるいは肉体的な苦痛を抱えるため、業務効率が低下するでしょう。ひいては企業全体の生産性が低下し、業績の悪化につながることが考えられます。
ハラスメントが横行する職場では、苦痛に耐えかねた従業員が退職するおそれがあります。優秀な従業員ほど、働きにくい職場に見切りをつけて早めに転職する傾向があることにも注意が必要です。
なかには、ハラスメントの被害を受けて心身に不調をきたした従業員が、休職や退職に至ることもあるでしょう。
このようにして離職者が増加すると、企業の生産性が低下することは明らかです。
【参考】従業員からマタハラに関する相談を受けたら?企業が最低限対応すべき方法について
先ほどもご説明したように、ハラスメントによる被害が発生すると、企業は安全配慮義務違反や使用者責任に基づき、被害者に対する損害賠償責任を負う可能性があります。
企業が法的責任を負うことは経済的な損失につながりますし、裁判などに対応するための時間や労力、コストの負担も生じるおそれがあることにも注意しなければなりません。
ハラスメント問題で裁判に発展すると、報道によって事実が明るみに出ることもあります。労働基準監督署による行政処分を受け、企業名が公表されることもあるでしょう。近年では、従業員がSNSなどで企業の実態を拡散することも少なくありません。
このようにして企業名やハラスメントの実態が社会の明るみに出ると、企業イメージの低下を招いてしまいます。顧客や取引先からの信頼を失い、業績の悪化につながるおそれが強いといえます。
ハラスメント防止規程には、最低限、厚生労働省のセクハラ防止指針やパワハラ防止指針で定められた事項を記載すべきです。具体的には、以下の4項目は必須となります。
なお、規程の文面については、厚生労働省が提供しているひな形(職場におけるハラスメントの防止に関する規定例)が参考になりますので、以下のリンクからご参照ください。
【参考】厚生労働省 山形労働局|雇用環境・均等室 ハラスメント対策・各種規定例ダウンロード
まずは、職場におけるハラスメントを断じて許さないという、事業主の方針を示すことが必要です。これは、企業から全従業員に対するメッセージでもあります。
ハラスメントが人権にかかわる重大な問題であることを指摘した上で、「断じて許さない」という姿勢を示し、安全で快適な職場環境作りに企業として取り組んでいくことを示すとよいでしょう。
ハラスメントを禁止するためには、具体的にどのような行為をしてはいけないのかを明確にする必要があります。そのため、まずは定義規定を設けて、各種ハラスメントの定義をそれぞれ記載します。
続いて、禁止行為の規定を設けて、禁止する行為の内容を、できる限り具体的かつ網羅的に列挙していきます。
ハラスメントの禁止規定に実効性を持たせるためには、実際にハラスメントが発生した場合には、加害者に対する制裁があることを規定しておくことも必要です。
加害者に対する不意打ちにならないようにするためにも、処分の内容をあらかじめ定めておくことは必須です。
具体的には、ハラスメント行為の内容や程度に応じて、懲戒処分の対象となる旨を規定します。懲戒処分には戒告・けん責・減給、出勤停止・降格・解雇などの種類がありますが、ハラスメント行為の内容・程度と懲戒処分の内容・程度が釣り合うように規定する必要があります。
ハラスメントによる被害を食い止めるためには、企業側が従業員からの相談に対し、その内容や状況に応じて適切かつ柔軟に対応するために必要な体制を整備しておかなければなりません。
そのためには、まず相談窓口を設置し、相談する際はどこに連絡すればよいのかを規程内に記載します。
相談を受けた後に企業側がどのような対応をとるのかについても、定めておくべきです。詳細については、別途「ハラスメント対応マニュアル」を策定し、そちらで定めても構いません。
ただし、企業側が事実関係を確認するために事情聴取を行うこと、従業員は正当な理由なく事情聴取を拒めないことなど、基本的な対応の内容は規程内に記載すべきです。
また、相談への対応にあたって、関係者のプライバシーは保護されることと、相談したことや事実関係の調査に協力したことを理由に不利益な取り扱いはしないことを規程内に定めておくことも必須です。
【参考】セクハラの事実認定の基準とは?企業側が知っておくべきポイントを弁護士が解説
ハラスメント防止規程を策定する際には、企業法務の実績が豊富な弁護士へのご相談をおすすめします。弁護士にご相談いただくことで、次のようなメリットが得られます。
企業法務の実績が豊富な弁護士に相談すれば、実際にハラスメントに関するトラブルを解決に導いてきた経験に基づき、実効性の高いハラスメント防止規程の内容を提案してもらえます。
単なるサンプルの提供ではなく、職場ごとの実態にマッチした、効果的な規程の策定が期待できます。
万全な内容の規程を策定したと思っても、実際に運用してみると不備が見つかることも少なくありません。不備を放置したままではハラスメント防止の効果が得られないおそれがあるので、規程内容は継続的に見直していく必要があります。
弁護士なら、どの点に、どのような不備があり、どのように改めればよいのかが分かるので、的確なアドバイスが得られるでしょう。継続的にアドバイスを受けるためには、顧問弁護士の契約をしていただくのがおすすめです。
従業員をハラスメントから守るためには、実際に発生したハラスメント事例を記録し、その対策や再発防止策を検討した結果に基づき、規程内容をブラッシュアップしていくことも大切です。
顧問弁護士がいれば社内の実情を継続的に把握してもらえますし、職場の実態に応じて規程内容をブラッシュアップするためのアドバイスも受けられます。ハラスメント防止に関する社内研修の講師なども依頼できます。
【参考】社外にハラスメント相談窓口を設置するメリット|ハラスメントの相談は弁護士へ
職場におけるハラスメント対応でお困りの際は、弁護士法人山本総合法律事務所へご相談ください。
当事務所には、企業の人事労務にまつわる問題への対応実績が豊富にございます。
ご相談いただければ、ハラスメント防止規程の策定をサポートさせていただくのはもちろんのこと、社内研修の講師なども承ります。ハラスメントが発生してしまった場合でも、深刻なトラブルに発展する前に適切な解決を図れるようにアドバイスもいたします。
ハラスメントを事前に防止し、企業の健全な経営を維持するためにも、ハラスメント対応でお困りでしたら、まずはお気軽にご相談ください。
当事務所では経営者様に向けた法的サポートを行っております。
経営者様からのご相談につきましては、初回に限り無料で対応しておりますので、
企業経営でお困りの方は、まずはぜひ一度お気軽にご相談ください。
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この記事を書いた人
山本 哲也
弁護士法人 山本総合法律事務所の代表弁護士。群馬県高崎市出身。
早稲田大学法学部卒業後、一般企業に就職するも法曹界を目指すため脱サラして弁護士に。
「地元の総合病院としての法律事務所」を目指し、個人向けのリーガルサービスだけでなく県内の企業の利益最大化に向けたリーガルサポートの提供を行っている。