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建設工事を請け負ったものの、支払期限が過ぎているのに元請業者から工事代金の支払いがないなど、工事代金・請負代金に関するトラブルを経験したことがある業者もいるでしょう。
建設業界では、工事代金の未払いが生じると他の業者への支払いや従業員への給料の支払いなどに遅れが生じてしまい、最悪のケースでは会社が倒産してしまうこともあります。このようなリスクを回避するには、工事代金などの未払いが発生した場合、それを放置するのではなく、迅速に債権回収を行うことが大切です。
今回は、建設業における債権回収トラブルへの対処法について、債権回収に詳しい弁護士が解説します。
目次
建設業界における動向
建設業界では、工事代金の未払いが生じるなどのトラブルが起きることがあります。それには、建設業界の以下のような特徴があるからです。
下請構造である
建設業界では、元請業者が下請業者に対して仕事を発注し、下請業者がさらに下請業者に仕事を発注するといった下請構造(重層下請構造)がみられます。このような下請構造には、以下のようなメリットがあります。
- 生産性の向上……元請業者は下請業者に多くの仕事を依頼することで生産性が向上し、下請業者は、同じ種類の仕事を複数回請け負うことで生産ラインを効率的に活用できる
- コスト削減……一度に複数の仕事を受注することで、人件費や原材料の調達コストを削減できる
- リスク分散……複数の業者が協力して仕事を行うことになるため、トラブルが発生してもリスクが分散するため全体的な影響は小さい
他方、元請業者と下請業者は、対等な関係ではなく、下請業者の方が圧倒的に不利な立場にあります。そのため、工事代金の支払いの遅延や未払いが生じたとしても、下請業者は、元請業者に強く主張することができないため、泣き寝入りしてしまうことも少なくありません。
今後も継続的に取引をしてもらう方がメリットが大きいと考えれば、元請業者の機嫌を損ねるような態度をとることができず、債権回収をあきらめてしまうといった特徴があります。
契約書がない
建設業法では、工事の種類や金額を問わず建設業を請け負う場合には契約書の作成が義務付けられています。
しかし、建設業界では、建設業法で契約書の作成が義務付けられているにもかかわらず、契約書を作成せずに建設工事を行っているというケースも少なくありません。また、基本契約書は作成しているものの、追加工事や変更工事があった際の契約書は作成せず、口頭での合意のみで工事を進めてしまうケースもあります。
契約書がなかったとしても、トラブルなく無事に終われば特に問題はありませんが、工事内容や工事代金、責任の所在などについてトラブルが生じてしまうと、契約書がなければ解決が困難です。
工事代金の支払いの遅延や未払いが生じても契約書がないため債権回収をあきらめてしまう業者も少なくありません。
【参考】契約書の作成やチェック業務
未払いが発生しやすい
建設工事は、工事代金の金額も高額になるため、元請業者の資金繰りの状況によっては、しばしば支払いの遅延が生じることがあります。多重下請構造の建設業界では、元請業者から工事代金の支払いが遅れれば、下請業者から発注を受けた孫請業者への支払いも遅延するなど、その影響はどんどん拡大していきます。
二次、三次、四次請けなど下に行けば行くほどその影響は大きくなり、工事代金の未払いにより大きな赤字を抱えることになるでしょう。
建設業における債権回収案件の対処方法
建設業において工事代金の未払いが生じた場合、以下のような方法で債権回収を行います。
電話や書面による催促
約束の期限が過ぎても元請業者から工事代金の支払いがない場合には、電話や書面による支払いの催促を行います。電話や書面による催促であれば費用も手間もかかりませんので、簡単に行うことができるでしょう。
元請業者が、単に支払期限を忘れていたというケースであれば、電話や書面により催促をすれば、すぐに支払いに応じてくれるはずです。
内容証明郵便
電話や書面による支払いの催促をしても支払いに応じてくれないという場合には、次の段階として内容証明郵便を利用して未払い工事代金の支払いを求める通知書を送ってみるとよいでしょう。
内容証明郵便は、誰が・誰に対して・どのような内容の文書を送ったのかを証明することができる郵便です。内容証明郵便自体には、未払いの工事代金の支払いを強制する法的効果はありませんが、相手に対して心理的なプレッシャーを与えることができますので、任意に支払いに応じてくれる可能性が高くなります。
また、内容証明郵便により未払い工事代金の請求をすると、時効の完成猶予事由である催告にあたりますので、時効の完成を6か月間猶予することができます。一時的ですが時効の完成を阻止することができますので有効な手段となるでしょう。
なお、内容証明郵便だけでは、いつ相手に届いたのかを証明することができませんので、必ず配達証明を付けて送るようにしましょう。
【参考】内容証明郵便を弁護士に依頼する場合の費用とメリットとは?企業法務に精通した弁護士が解説
訴訟
内容証明郵便を利用して工事代金の支払いを求めても、支払いに応じてくれない場合は、最終的に裁判所に訴訟を提起する必要があります。一般的な訴訟の流れは、以下のようになります。
訴状の作成
訴訟を提起するには、まずは訴状を作成する必要があります。訴状には、請求の趣旨(請求する内容)や請求原因(請求内容を特定するために必要な事実)を記載しなければなりません。法的知識がなければ正確な訴状の作成は困難ですので、弁護士に任せた方がよいでしょう。
裁判所に訴状を提出して訴訟提起
訴状が完成したら、証拠と一緒に裁判所に提出して訴訟提起をします。
訴状が受理されると第1回口頭弁論期日の日時が指定されます。
裁判所から被告に対して訴状などの裁判書類の送達
裁判所から被告に対して、訴状などの裁判所類の送達が行われます。
被告から答弁書の提出
被告は、原告の請求や主張に反論がある場合には、答弁書に記載して裁判所に提出します。
第1回口頭弁論期日
原告および被告は、指定された日時に裁判所に出頭して、第1回口頭弁論期日を執り行います。第1回口頭弁論期日では、原告による訴状の陳述、被告による答弁書の陳述が行われ、次回期日が決められて終了となります。
なお、被告は、答弁書を提出していれば第1回口頭弁論期日に限り欠席することが可能です。
続行期日
2回目以降の期日は、基本的に1か月に1回のペースで開催され、原告および被告からの主張立証が出揃うまで続けられます。
和解勧試
事件の争点がある程度整理された段階で、裁判所から和解の提案がなされることがあります。裁判所から提示された和解案に当事者双方が同意すれば、和解成立により訴訟は終了となります。
証拠調べ期日
和解が不成立になると、その後も審理が続けられ、当事者または証人の尋問が行われます。
判決
裁判所は、当事者からの主張立証を踏まえて、最終的に判決を言い渡します。
強制執行
裁判所から未払いの工事代金の支払いを命じる判決が確定しても、債務者が任意に支払いに応じないときは、裁判所に強制執行の申立てを行います。
強制執行の申立てをすると、債務者の財産(預貯金、売掛金、不動産など)を差し押さえて、強制的に未払いの工事代金の回収を行うことができます。債権者側で債務者の財産を特定して、強制執行の申立てをしなければなりませんので、債務者にどのような財産があるかを把握しておくことが重要になります。
建設業で債権回収を行う際に注意すべきポイント
建設業で債権回収を行う際には、以下の点に注意する必要があります。
契約書の有無の確認
未払い工事代金を請求するには、債権者の側で契約内容などを立証していかなければなりません。契約書があれば、それだけで契約内容の立証ができますので、裁判になったとしても契約書に記載された内容の権利を実現することができるでしょう。
しかし、契約書がない場合には、契約書以外の証拠により契約内容などの立証をしていかなければなりません。契約書がなくても債権回収は可能ですが、契約内容の立証に苦労することが多いため、まずは契約書の有無を確認するようにしてください。
債権回収には時効がある
工事代金などの債権は、一定期間権利を行使せずに放置していると時効により権利が消滅してしまいます。具体的な時効期間は、以下のとおりです。
- 2020年3月31日以前に締結された請負契約の場合……3年
- 2020年4月1日以降に締結された請負契約の場合……5年
元請業者に気を遣って権利行使をせずにいると、すぐに時効になってしまいます。時効になってしまうと弁護士に依頼したとしても、債権回収を実現するのは困難ですので、早めに行動することが大切です。
なお、債権の消滅時効には、時効期間の進行をストップする「時効の完成猶予」と時効期間の進行をリセットする「時効の更新」という制度があります。時効の完成が迫っているような場合には、内容証明郵便を利用して未払い工事代金の請求をすることで、時効の完成を6か月間猶予することができますので、利用してみるとよいでしょう。
話し合い・交渉等での調整の余地
債権回収は、最終的には裁判や強制執行により実現することができますが、解決までに長い時間がかかり、お互いの関係性にも亀裂が入ってしまいます。
そのため、いきなり訴訟を提起するのではなく、まずは話し合いや交渉でトラブルを解決する余地があるかどうかを検討してみましょう。お互いの話し合い・交渉で解決できれば、円満な解決が可能ですので、今後も取引を継続してもらえる可能性もあるかもしれません。
特定建設業者の立替払い制度
工事代金の未払いなどにより従業員への賃金の支払いが滞った場合、元請業者が「特定建設業者」に該当すれば、特定建設業者の立替払い制度を利用することで立替払いを受けられる可能性があります。
たとえば、元請業者Aが下請業者Bに発注し、下請業者Bがさらに下請業者Cに発注したとします。Aは、Bに工事代金を支払ったからそれで終わりというわけではなく、末端の下請業者まで工事代金が支払われているか監視する義務を負っています。そのため、BがCに対して工事代金の支払いを怠った場合、Cは特定建設業者の立替払い制度を利用することで、国土交通大臣や都道府県知事からAに対して、指導・助言・勧告などをしてもらうことができます。
法人破産も見据えた迅速な回収
工事代金の支払いを怠っている業者は、資金繰りが悪化している可能性があります。そのままの状態が続くと法人破産になる可能性もありますので、迅速に債権回収を進めていかなければなりません。
取引先の経営状態については、普段からしっかりと把握しておき、万が一のときにすぐに動けるようにしておくことが大切です。
【参考】法人破産のリスクがある場合、未払金・給与の取扱いで注意すべきポイント
建設業の債権回収を弁護士に依頼するメリット
建設業の債権回収を弁護士に依頼することで以下のようなメリットが得られます。
最適な債権回収方法を提案してもらえる
債権回収の方法には、大きく分けて裁判外の債権回収と裁判上の債権回収の2種類があります。どちらの債権回収方法を選択すべきかは、具体的な状況によって異なりますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば、具体的な状況に応じた最適な債権回収方法を提案してもらえますので、無駄な手続きで時間を無駄にするおそれはありません。どの手続きを選択するかによって、債権回収の結果は大きく左右されることもありますので、自己判断ではなく専門家である弁護士のアドバイスを求めるようにしましょう。
迅速に債権回収に着手してもらえる
工事代金の未払いが生じたとしても、多くの事業者が何から手を付ければよいかわからず、時間ばかりが過ぎてしまいます。債権回収は、スピード勝負ですので、時間が経てば経つほど債権回収の確率は低くなっていきます。
弁護士に依頼すれば、迅速に債権回収に着手してくれますので、債権回収の確率を高めることができます。専門的な知識や経験がなければ迅速な債権回収の実現は困難ですので、早めに弁護士に相談するようにしましょう。
面倒な手続きをすべて任せられる
電話や書面による督促であれば、弁護士なしでも対応可能ですが、訴訟や強制執行が必要な状況になると、知識や経験のない一般の事業者の方では対応は困難だといえます。
弁護士に依頼すれば、このような複雑かつ面倒な法的手続きが必要になるケースでも、対応をすべて任せることができますので、ほとんど負担なく債権回収を行うことができます。慣れない債権回収に時間や手間がとられてしまうと、本業にも支障が生じるおそれがありますので、不慣れな債権回収は、専門家である弁護士に任せるのが安心です。
債務者に対してプレッシャーを与えられる
裁判外の債権回収方法でも弁護士が代理人となって交渉したり、内容証明郵便を送付することで、債務者に対してプレッシャーを与えることができます。
債務者としては、このまま支払いに応じないと裁判を起こされるという危機感を抱きますので、任意の交渉段階で未払いの工事代金の支払いに応じてくれる可能性が高くなります。交渉で解決できれば、解決までの時間や労力を大幅に削減することができますので交渉段階から弁護士に依頼するのがおすすめです。
【参考】建設業の経営者様へ|群馬県内で顧問弁護士をお探しなら弁護士法人山本総合法律事務所へ
建設業の債権回収は弁護士法人山本総合法律事務所にご相談ください
債権回収をお考えの建設業者の方は、弁護士法人山本総合法律事務所にご相談ください。
建設業の債権回収は、建設業界特有の問題がありますので、建設業界の商慣習やルールなどを把握していなければ適切に対応することができません。当事務所では、建設業界のトラブルに関する豊富な解決実績と経験がありますので、建設業の債権回収についても適切に対応することが可能です。
債権回収は、担当する弁護士の知識や経験によって結果が大きく左右されますので、まずは当事務所までお気軽にご相談ください。
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この記事を書いた人
山本 哲也
弁護士法人 山本総合法律事務所の代表弁護士。群馬県高崎市出身。
早稲田大学法学部卒業後、一般企業に就職するも法曹界を目指すため脱サラして弁護士に。
「地元の総合病院としての法律事務所」を目指し、個人向けのリーガルサービスだけでなく県内の企業の利益最大化に向けたリーガルサポートの提供を行っている。