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従業員からの請求が急増!企業が理解しておくべき残業代の計算方法について

近時、物価高騰などの影響で、いわゆる実質賃金が少なくなったと感じている方、あるいは少なくなるかもしれないと心配している方も少なくないようです。

そのためもあってか、従業員や元従業員の方が過去の残業代で支給されていない分を請求するケースが最近活発になっております。

しかし、残業代は計算方法が難しく、請求を受けた企業側が正しい計算方法を知らないと、従業員と協議することが難しくなるリスクがあります。

そこで今回は、企業が理解しておくべき残業代の計算方法について解説します。

残業代に関する基礎知識

残業代の基礎知識

まず、残業代に関す津基礎知識から解説します。

労働法における「残業時間」の定義

残業時間とは、労働法上、所定時間を超えて労働した時間のことを指します。

厳密には「残業」とは、法律用語ではなく、法定内、法定外双方の労働時間の他、休日労働や、深夜業などを指す場合もあります。

所定労働時間とは

所定内労働時間とは、雇用契約上、労働者が始業時刻から終業時刻までの通常勤務することが義務付けられている基本的な労働時間のことを指します。

似た言葉で「法定労働時間」というものがあります。これは、労働基準法第32条で定められている労働時間の上限を指します。具体的には、1週40時間、1日8時間が原則です。

労働基準法では、原則として、法定労働時間を上回る労働時間を設定することを禁止しているので、通常の場合、所定労働時間は法定労働時間と同じか、これを下回ることになります。

そのため、所定労働時間が法定労働時間を下回った場合には、同じ残業でも、法定労働時間内でおさまる残業とそうでない残業が生じることとなります。

この場合、前者を法定内残業、後者を法定外残業と呼びます。

未払い残業代が発生することの企業経営のリスク

放置すると支払金額が膨大になる可能性がある

未払残業代が発生すると、企業は従業員から請求される場合があります。

内容証明郵便を用いて請求される、労働組合を通じて請求されるといったところから始まり、これに応じない場合には労働審判や民事訴訟を提起される可能性があります。

そして、未払残業代請求権の消滅時効は、民法改正により、行使可能時から5年に伸長されたため(現時点(2024年8月現在)では当面の措置として3年とされています)、消滅時効期間満了に近くなってから、その分の遅延損害金を加えて金額が大きくなってから請求されることも少なくないのです。

また、民事訴訟において未払残業代が請求された場合には、これに加えて「付加金」を請求することができます。

「付加金」とは、未払残業代の請求に当たり、裁判所が使用者に対して支払いを命じる未払残業代と同額の金銭です。

未払残業代を放置していると、従業員から請求されて支払う場合には、元々の金額よりもかなり大きな金額になることが少なくありません。

企業規模によっては、財産状況が悪化するリスクを背負うことになります。

評判が悪くなる

未払残業代を放置して支払わないと、大企業の場合は報道される可能性があります。

そうではない場合でも、SNSなどに事実が投稿された場合には、拡散されるリスクがあります。

このような場合には、企業の評判が落ちて、売り上げやクライアントとの取引に影響が生じる可能性があります。

労働基準監督署による調査・勧告の可能性

従業員が、未払残業代について労働基準法37条違反であることなどを労働基準監督署に申告することも少なくありません。

労働基準監督署は、違反申告を受け付けると調査を行い、その結果違法状態が確認されれば、是正勧告等を行います。

企業規模によっては、是正勧告を受けたことが報道され、企業イメージが大きく落ちることにもつながりかねません。

また、調査対応に大きな手間や時間がかかるといった問題もあります。

【参考】従業員からの残業代請求の時効はいつまで?請求リスクを踏まえた対処方法を弁護士が解説

 

残業代と時間外手当について

残業代と時間外手当

残業代と時間外手当の違い

残業代とは、会社が定めた所定労働時間を超えた際に、法定内・法定外問わず支払われる賃金です。

一方時間外手当とは法定労働時間を超えた場合に支払われる残業代を指し、1時間に25%以上割増しされることとされています。

すなわち、時間外手当は残業代の一部ということになります。

残業手当について

先ほど述べたとおり、残業手当(残業代)とは、会社が定めた所定労働時間を超えた際に、法定内・法定外問わず支払われる賃金です。

一般的には、労働基準法に定められる3種類の割増賃金(時間外手当、休日出勤手当、深夜手当)と、所定労働時間を超えて労働したときの法定内残業に対する賃金が残業手当に含まれることとなります。

休日出勤手当について

休日出勤手当とは、法定休日に出勤した場合に通常の労働時間の25%以上の割増をして支払われる賃金のことを指します。

法定休日とは、労働基準法35条に定める「1週1回、4週4回以上」取得すべき休日のことを指します。

例えば、土日休みの週休2日としている企業の場合、土曜か日曜のいずれかが法定休日に該当します。具体的には、土日ともに出勤した場合には、1日分が法定休日の出勤となるため、この場合、休日出勤手当を支払うことが必要となります。

休日出勤の場合の賃金の割増率は、35%となります。

深夜手当について

深夜手当は、労働基準法で定める深夜時間帯(原則として午後10時から午前5時)において1時間25%以上を割増しして支払われる賃金のことを指します。

深夜時間帯の労働が法定の時間外労働に該当する場合には、「深夜手当」と「時間外手当」が合算して支払われることとなるため、1時間50%以上の割増がされることとなります。

 

【参考】従業員から残業代請求をされた場合の対応方法を弁護士が解説
【参考】顧問弁護士とは?顧問弁護士との契約内容の基礎知識と活用のメリット

残業代の計算方法について

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以上の基本事項を前提として計算方法を解説します。

残業時間の計算方法

法定内残業時間の場合

例えば、1日の所定労働時間が9時から17時(休憩1時間)で、その日の就業時刻が18時だった場合、所定労働時間7時間に対して実労働時間は8時間となります。

残業時間=実労働時間(8時間)-所定労働時間(7時間)=1時間

この例では、実労働時間が法定労働時間を超えないため、賃金の割増は発生しません。

法定外残業時間の場合

1日の所定労働時間が9時から17時(休憩1時間)で、その日の終業時刻が19時だった場合、所定労働時間7時間に対して実労働時間は9時間となります。

残業時間=実労働時間(9時間)-所定労働時間(7時間)=2時間

残業時間2時間の内訳は、1時間が法定内残業、もう1時間が法定外残業となりますので、後者の1時間について、賃金に25%以上の割増が発生します。

多様な残業代の計算方法

残業代の計算方法は、労働時間や給与の取決め方によって異なります。以下では類型ごとに計算方法を解説します。

フレックスタイム制の残業代計算

フレックスタイム制とは、一定期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者の日々の始業時刻や終業時刻、労働時間を決めることができる制度です。

フレックス体制の下では、清算期間(所定労働時間を定める期間)を通じて、法定労働時間の総枠を超えて労働した時間が、法定時間外残業としてカウントされます。

清算期間が1か月以内の場合は、通常と同様に総労働時間から法定労働時間お引き、法定労働時間の総枠を超えた分が法定外残業となります。

清算期間が1か月を超える場合は、①1か月ごとに週平均50時間を超えた労働時間、②清算期間を通じて、法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(1でカウントした労働時間を除く)が法定外残業となります。

裁量労働制の残業代計算

裁量労働制とは、予め規定していた時間を既に働いたものとみなし、その分の賃金を一律に支払う制度です。原則として、時間外労働の上限である月45時間、年360時間を超えることはできません。

裁量労働制での残業は、あらかじめ一定の残業があったとみなす「みなし残業」で、毎月固定残業代が支給されます。

ただし、以下の場合には、それぞれ基礎賃金に割増する手当てが生じます。

みなし労働時間が法定労働時間を超える場合

法定労働時間を超えた労働時間に対し、25%以上の割増率が適用されます。

例えば、みなし労働時間を10時間と定めたときには、法定労働時間を超えた1時間分が割増対象となります。

22時から翌5時までの深夜に労働した場合 

 深夜手当として、25%以上の割増率が適用されます。

法定休日に労働した場合

休日手当として35%以上の割増率が適用されます。

日給制の残業代計算

日給制の場合も、もちろん残業代を請求することができます。

まず、1時間当たりの基礎賃金を計算します。

1時間当たりの基礎賃金=1日当たりの基礎賃金÷1日の所定労働時間

そして、残業時間と、そのうち法定内労働時間を超えている部分を割り出します。その上で、以下の計算式で残業代を計算します。

残業代の金額=1時間当たりの基礎賃金×(法定内残業の時間数+法定外残業の時間数×1.25)

年俸制の残業代計算

年俸制とは、給与額を1年単位で決定する給与体系を指します。

年俸制の場合も原則的に残業代は支給されます。

残業代が出ないのは、

  • 固定残業制で残業時間がみなし残業時間以内の場合
  • 裁量労働制で労働時間が法定労働時間内で収まっている場合
  • 管理監督者である場合となります。

残業代が出る場合、その計算は以下のとおりとなります。

 

ア まず、月額給与を計算します。この場合、計算方法は以下の2通りがあります。

  •  賞与支給分がない場合:年俸を12で割ったものを月額給与とする
  •  賞与支給分がある場合:年俸16で割ったものを月額給与とする(4か月分は賞与)

イ 次に1時間当たりの基礎賃金を計算します。

1時間当たりの基礎賃金=月額給与÷1か月の所定労働時間

 

ウ その後の計算式は、日給制の場合と同じで、残業時間と、そのうち法定内労働時間を超えている部分を割り出します。その上で、以下の計算式で残業代を計算します。

残業代の金額=1時間当たりの基礎賃金×(法定内残業の時間数+法定外残業の時間数×1.25)

 

管理職の残業代計算

会社内で、一定の役職につき「管理職」として扱われるようになると、残業代

が支給されないといわれています。

しかし、残業代が支給されないのは、労働基準法における「管理監督者」に該当する場合となります。

「管理監督者」とは、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体と

なる立場にある者」であり、これに該当すると、労働時間・休憩・休日の制限を

受けず、残業代は発生しません。

し、「管理監督者」といわゆる「管理職」とは必ずしも同義ではないので、「管理職」であっても「管理監督者」でない場合には、残業代の支給の対象となります。

その場合の、残業代の計算方法は、給与の取決め方(裁量労働制なのか、年俸制なのか等)によって異なることになります。

固定残業代計算

固定残業代とは、残業したかどうかにかかわらず、毎月定額で支払われる残業代のことです。

例えば、月30時間分の固定残業代が設定されている場合、残業を全くしなかった月と30時間した月では給与額は変わりません。

しかし、30時間以上の残業をした月については、20時間を超えた部分について追加で残業代を支払う必要があります。

なお、固定残業代の設定は、労働基準法の規制を踏まえて、1年単位の変形時間労働制を採用している事業場以外のところでは、月30時間以内にしておく必要があります。

固定残業代の算出方法は以下のとおりとなります。

固定残業代=1時間当たりの基礎賃金×固定残業時間×割増率

 

割増率は、固定残業代が、時間外手当(25%)、休日手当(35%)、深夜手当(25%)のいずれに該当するかで変わりますので、それに応じて割増率の最低限度を満たすように設定する必要があります。

残業代の計算例

では、残業代の計算例を見ていくこととします。

例)月額給与28万円、年間所定休日125日、所定労働時間7時間

  • 1か月の所定労働時間:(365日-125日)×7時間÷12=140時間
  • 1時間当たりの賃金:28万円÷140時間=2000円。

ある日、終業時刻後3時間の残業を行ったとします。

この場合、1時間は法定内労働時間、残り2時間は法定外労働時間となります。

残業代=2000円(1時間分の基礎賃金)+2000円×1.25(割増率)×2時間=7000円

この日の残業代は、7000円となります。

【参考】顧問弁護士をお探しの方へ

従業員からの未払い残業代請求に関するご相談は山本総合法律事務所へ

弁護士写真

残業代の計算は、複雑で一般の方にはわかりにくいものです。そのため、請求された残業代が正当なものなのかを企業側が確認するためには、弁護士の助力が欠かせません。

当事務所は未払残業代の問題に精通している弁護士が在籍しております。残業代の問題については、ぜひ当事務所にご相談ください。

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この記事を書いた人

山本 哲也

山本 哲也

弁護士法人 山本総合法律事務所の代表弁護士。群馬県高崎市出身。
早稲田大学法学部卒業後、一般企業に就職するも法曹界を目指すため脱サラして弁護士に。
「地元の総合病院としての法律事務所」を目指し、個人向けのリーガルサービスだけでなく県内の企業の利益最大化に向けたリーガルサポートの提供を行っている。

山本 哲也

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